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最高裁判所第三小法廷 平成3年(オ)1684号 判決

上告人

芳村信二

外五六名

右五七名訴訟代理人弁護士

村山晃

被上告人

株式会社松美

右代表者代表取締役

松原東善

右訴訟代理人弁護士

杉島勇

杉島元

小沢礼次

主文

原判決中上告人らの予備的請求に関する部分を破棄する。

右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

上告人らのその余の上告を棄却する。

前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人村山晃の上告理由第一について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二について

上告人らの予備的請求は、第一審判決添付物件目録(二)記載の土地(以下「本件要役地」という。)の共有者の一部である上告人らが同目録(一)記載の土地(以下「本件承役地」という。)の所有者である被上告人に対して地役権設定登記手続を求めるものであるが、原審における上告人ら提出の昭和六三年三月三日付け「訴変更の申立書」によれば、その請求の趣旨は、「被上告人は上告人らに対し、本件承役地につき、上告人らの本件要役地の持分について、本件要役地を要役地とする通路や子供の遊び場等として使用することを内容とする地役権設定登記手続をせよ。」というものである。

原審は、本件要役地の共有者の全員と被上告人との間で本件要役地のために本件承役地の通行を目的とする地役権が設定されたことを認定した上、(1) 本件予備的請求は上告人らの有する本件要役地の共有持分について地役権設定登記手続を求めるものと解されるところ、要役地の共有持分のために地役権を設定することはできないから右請求は主張自体失当である、(2) 仮に本件予備的請求を共有者全員のため本件要役地のために地役権設定登記手続を求めるものと解すると、要役地が数人の共有に属する場合においては地役権設定登記手続を求める訴えは固有必要的共同訴訟であり上告人らは共有者の一部の者にすぎないから右請求は不適法な訴えとして却下を免れないとして、本件予備的請求を棄却すべきものと判断した。

しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

要役地の共有持分のために地役権を設定することはできないが、上告人らの予備的請求は、その原因として主張するところに照らせば、右のような不可能な権利の設定登記手続を求めているのではなく、上告人らがその共有持分権に基づいて、共有者全員のため本件要役地のために地役権設定登記手続を求めるものと解すべきである。

そして、要役地が数人の共有に属する場合、各共有者は、単独で共有者全員のため共有物の保存行為として、要役地のために地役権設定登記手続を求める訴えを提起することができるというべきであって、右訴えは固有必要的共同訴訟には当たらない。

原判決には上告人らの申立ての趣旨の解釈及び法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決のうち本件予備的請求に関する部分は破棄を免れない。そして、右部分については、地役権設定の範囲等を明確にさせるなど更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻し、上告人らのその余の上告を棄却することとする。

よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大野正男 裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告代理人村山晃の上告理由

第一〈省略〉

第二 原判決は、予備的請求についての法令の解釈・適用を誤っており、その誤りが判決に影響を及ぼすこと明らかであって破棄を免れない。

原判決は、不十分ながらも、原告らが地役権を有することについては、これを認めたものの、登記請求権については、これが固有必要的共同訴訟であるとしてこれを排斥している。

しかし、原告らの請求は、現に存在する権利を登記にまで高めさせようというものであって、何ら共有者にとってマイナスとなるものではない。新たな義務を負担するものでもない。共有土地の機能を地役権によって正当ならしめようという点からすれば明らかに民法二五二条でいう保存行為に属する性格のものという外はない。

各共有者が不動産の全部についての登記抹消を為しうる場合があるというのは確立した判例であるが、本件も同様な考え方から、すでに存在する地役権を保存するため登記手続を求めるというのは、一種の保存行為に属し、各共有者において独自に為しうるものというべきである。

このように考えていかないと、訴訟を起こそうとしない者がいる限り―とりわけ本件では、被告も共有者であって全員が訴訟で揃うということはあり得ない―地役権を第三者から保護する方法は見つからないこととなってしまい、著しく妥当性を欠くものという外はない。

近時「固有必要的」と称する性格のものは学説的にも減少してきていることにも注目されるべきである。

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